ロッテは先発の黒木が5回を被安打3、奪三振3、四死球5、無失点で2001年7月7日日本ハム戦以来、1061日ぶりの白星を挙げた。ロッテは1回、橋本の自身初となる6号満塁ホームランを放ち4点を先制。6回には福浦が2試合連続となる7号2ランを放つなど、3試合連続となる2ケタ安打の猛攻で、今季最多となる15点を奪った。ロッテは対ダイエー今季3度目のカード勝ち越し。ダイエーは先発星野が10安打で9失点の乱調、今季ワーストとなる15失点を喫した。
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | R | |
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千葉ロッテ | 4 | 1 | 0 | 0 | 1 | 3 | 6 | 0 | 0 | 15 |
福岡ダイエー | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 1 | 1 | 1 | 5 |
ジョニーが笑った。泣いた数だけ逞しくなって、黒木知宏がついに復活星を手に入れた。ダイエー打線に3回まで、毎回の3安打5四球と苦しいピッチングも、打線の援護を受け5回無失点。01年7月7日以来、1061日ぶりの勝利を挙げた。「涙を流したいところだけど、これが1つの通過点だから」と、かすれ声で背番号54を震わせたジョニー。右肩痛の悪夢を過去のものに葬り去った。
涙は、心の中にそっとしまった。最後を締めた「師匠」小宮山からウイニングボールを渡され、3年ぶりに臨むヒーローインタビュー。「家族や待っててくれたファンに感謝したい。涙は(また)次までとっておきます」。背番号54が震えている。左翼スタンド近くへ足を運び、深々と頭をたれた。「ナインが『泣くなよ、泣くなよ』って、泣かせようとするから、絶対に泣くもんかって」。潤んだ目で久々の勝利の余韻に浸った。
「私が長く監督をしていれば彼がケガをすることはなかった」。後悔の念を口にし続けてきたバレンタイン監督も感無量だ。この日は3回までに5四球、4回を終え100球を超えていた黒木を「前回は6回無失点で勝てなかった。今日は絶対に勝たせたい」と5回のマウンドに送り出した。「興奮したよ。彼が1勝目を挙げたことがとても嬉しい。制球が定まらずに苦しんでいたから、簡単ではなかったと思うけど」。バレンタイン監督も顔を上気させてまくし立てた。01年7月7日以来の勝利だ。壊れた肩を再生させるため、気の遠くなるような時間をトレーニングにあててきた。肩甲骨と上腕骨をつなぐインナーマッスルを負傷していたため、来る日も来る日も壁につないだゴムを引っ張って強化にあてた。「もう1度マウンドに上がって勝つ喜びを味わいたかったですから」。
あきらめてしまいそうな単調な日々を、強い気持ちで乗り切った。そんな思いは今季のグラブに表れている。メーカーに自ら発注したのは、親指と人差し指の間の網目の部分。フェニックスをイメージした模様を注文した。まさに不死鳥。「復活」の2文字も刻んでもらった。この日が必ずくる、と信じて…。 この日のスタンドには、裕子夫人と愛娘の芽依ちゃんの姿があった。「勝つまでは応援したいって、言ってくれていたんですよ。家族がいたからここまでやれたと思います」と黒木。そして球場を去る際には「嬉しいけど、ここからが始まり。もっと感動するの見せますよ」と宣言した。ジョニーの力投に呼応するように、チームは4月30日以来の連勝。借金も約半月ぶりに1ケタに戻した。チームに勢いを、ファンには感動を−。ジョニーは、やっぱり絵になる男だ。
黒木の今季全成績 | |||||||||
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日付 | 場所 | 相手 | スコア | 回 | 安 | 振 | 球 | 責 | 勝敗 |
04-17 | 東京ドーム | 日本ハム | ●2−6 | 6 0/3 | 2 | 5 | 3 | 4 | 1敗 |
04-24 | 千葉マリン | オリックス | ●1−2 | 6 1/3 | 9 | 2 | 2 | 1 | 2敗 |
05-01 | 〃 | 西武 | ●5−9 | 3 1/3 | 5 | 2 | 8 | 3 | − |
05-11 | 札幌ドーム | 日本ハム | ●3−4 | 4 | 5 | 1 | 4 | 3 | 3敗 |
05-23 | 千葉マリン | オリックス | ○3−1 | 6 | 1 | 4 | 0 | 0 | − |
06-02 | 北九州 | ダイエー | ○15−5 | 5 | 3 | 3 | 5 | 0 | 1勝 |
今季これまで5度の先発は0勝3敗。4月24日オリックス戦は6回1/3を自責点1、5月23日オリックス戦は6回無失点も見方打線の援護がなかった。
捕手の橋本が、6番DHでスタメン出場し、満塁弾で黒木をアシストした。初回、2死満塁から星野の直球をバックスクリーンへ運んだ。橋本は「久し振りのスタメンで、しかもDHということで気合が入りました。真っ直ぐを完璧に打てましたよ」と笑顔を見せていた。
李承Y内野手が、4日の近鉄戦(千葉マリン)から約1ヶ月ぶりに1軍復帰することが2日、決まった。この日、イースタン・リーグ、巨人戦で左越え本塁打を放った李は「今まで失ったことを取り戻して1軍に戻ります。それは自信です」と語った。1軍では外野での起用も考えており、この日は左翼守備に入り、飛球2本を無難に処理した。バレンタイン監督は「様子を見て使えるかどうか判断したい」と期待。李が左翼に入れば、好調フランコのDH出場など選択肢が増える。
黒木が2001年7月7日以来の白星。序盤で打線の大量援護を受けながらも、何度もピンチを迎えた。しかし、これまでの苦労を乗り越える粘りの投球で5回を無失点に抑え、1061日ぶりの復活。チームも今季最多の15得点で黒木の勝利を手助けした。
ヒーローインタビューを終えた黒木が左翼へ走り出す。スタンドのファンへ頭を下げ、両手でガッツポーズを作った。涙はない。1061日ぶりの復活は笑顔で迎えた。「嬉しいですよ。嬉しいけど、周りが泣かそうとするので“泣いてたまるか”と思って…」。
苦しみ抜いた道のりを象徴する投球だった。序盤に大量援護をもらいながら危機の連続。2回1死満塁を連続三振でしのいだが、3回も2死から一、二塁とされた。4回までに今季最多の101球。「交代も考えたけど何とか勝たせたかった」というバレンタイン監督の心遣いに応え、5回は三者凡退で切り抜けた。
内容には不満が残る。思わず「こんなものか、という思いもある」と漏らしたが、素直に喜んでいい。チームは4月30日以来の連勝。3回までに3安打5四球と乱れながらも粘った姿こそが、低迷するチームに求められる。指揮官は「苦しんでいたが、よくやってくれた」と手放しで称えた。
危機のたびにズボンのポケットで握り締めたお守り。手作りしてくれた裕子夫人と芽依ちゃんも場内で見守っていた。「ここからが始まり。もっといい時に涙を流したい」。6度目の挑戦で挙げた復活勝利だが、もう勝つだけでは満足できない。もっと劇的で内容が濃い勝利が欲しい。本当の復活劇が始まる。
ジョニーが笑った。涙はこらえた。平成13年7月7日以来、1061日ぶりの1軍勝利。敵地・北九州のスタンドから響く「おめでとうジョニー」の歓声に、ガッツポーズで応えた。「素直に嬉しいです。最後まで夢を諦めないで頑張れば、いいことがあるんだということを伝えられたと思います」。
最後を締めた小宮山からウイニングボールを渡されると、ホッとした表情が広がった。5回を無失点で投げ終えたものの、115球を要する苦しい投球。マウンドを降りると、ベンチでは3年間の苦闘の日々が頭をよぎった。
右肩を痛めたのが平成13年7月27日。翌14年には太ももの肉離れが重なり、登板なしに終わった。昨年、2軍戦に復帰したものの、再び違和感を覚え、結局ファームで1年を過ごした。「辞めた方がどんなに楽だろう…」。弱気な考えが何度も頭に浮かんだ。苦悩は今季に入っても続いた。4月17日の日本ハム戦(東京ドーム)で約2年半ぶりに1軍マウンドに復帰。しかし、以降5戦に先発するも、ことごとく勝ち星には見放された。登板予定日の千葉マリンにはダフ屋が現れるほどの注目と期待の中、押しつぶされるほどの重圧に苦しんだ。
浪人生活から帰ってきた尊敬する先輩・小宮山や、同じ右肩痛に苦しんだ西武・石井貴が先に復活勝利。「オレだってやってやる」。そんな悔しい気持ちを表すように試合後、誰もいなくなったグラウンドをひとり黙々とランニングを続けた。
「とてもよく投げてくれた。私も嬉しい」。バレンタイン監督も満面の笑みで、復活勝利を称えた。だが、周囲の祝福の嵐にも、黒木は「これで終わりじゃないですから。まだまだ通過点。涙はもっといいときまで取っておきます」。言葉に力を込めた。復活の夢は叶った。もう後ろは向かない。バレンタイン監督を胴上げし、ファンとともに喜びあう日まで、その涙はとっておく。
常に1番近いところで支えてきた裕子夫人と芽依ちゃんは、この日もスタンド観戦。札幌ドームでの日本ハム戦以外は全て球場に足を運び、一緒に戦ってきた。夫の体のことを考え、本を読み、料理の勉強をするなど常にサポートしてきた裕子夫人の努力も同時に報われた。
黒木知宏の今季登板成績 | |||||||||
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月日 | ●○ | 登板 | スコア | 相手 | 回 | 安 | 振 | 球 | 責 |
04-17 | ● | 先発 | 2−6 | 日本ハム | 6 0/3 | 2 | 5 | 3 | 4 |
04-24 | ● | 先発 | 1−2 | オリックス | 6 1/3 | 9 | 2 | 2 | 1 |
05-01 | − | 先発 | 5−9 | 西武 | 3 1/3 | 5 | 2 | 8 | 3 |
05-11 | ● | 先発 | 3−4 | 日本ハム | 4 | 5 | 1 | 4 | 3 |
05-23 | − | 先発 | 3−1 | オリックス | 6 | 1 | 4 | 0 | 0 |
06-02 | ○ | 先発 | 15−5 | ダイエー | 5 | 3 | 3 | 5 | 0 |
黒木の復活に今季最多得点での勝利と、いいことずくめの白星。バレンタイン監督は「(黒木が)1勝を挙げてくれて喜んでいる。苦しんだが、おめでとうといいたい」と3年ぶりの白星を祝福した。チームも約1ヶ月ぶりの連勝。さらに李承Yの1軍復帰も決まった。同監督は「(李は)4日の近鉄戦から戻ってくる。月も新しくなったし、この戦いを続けていきたい」と笑顔、笑顔。
今季初めてDHに入った橋本が初のグランドスラム。「久しぶりのスタメンで、気合が入りました。ストレートを完ぺきに打つことができました」。黒木の登板した過去5戦のうち、4戦でマスクをかぶった女房役が、バットで強烈な援護射撃。火がついた打線は17安打の猛攻をみせた。
ついに、3年間ため続けた黒木の思いが実を結んだ。9回を締めた小宮山から、待ちに待ったウイニングボールを受け取った。「チームメート、ファン、みんなに感謝したい」最初に口にしたのは感謝。左翼席に駆け寄り、帽子を取った。2001年7月7日の日本ハム戦(松山)から遠ざかっていた白星。忘れかけていた1061日ぶりの感覚だった。
今季6度目の先発は、決して万全とはいえなかった。23日のオリックス戦では、右肩の「緩さ」を訴えて6回1安打無失点ながら降板。この日も制球が定まらず5四球。「もっといい投球をしないと満足できないよね」それでも要所を締めて5回を3安打無失点。中堅119メートル、両翼92メートルと狭い北九州市民球場で、長打を1本も許さなかった。
95年にルーキーだったジョニーを抜擢したバレンタイン監督も、右腕の勝利に酔った。「自分がずっと黒木を見ていれば、こんなにひどい怪我にはならなかったのでは」と思い続けていた指揮官は、4回ですでに100球を超えた右腕の続投を決断。「代えようとも思ったが、彼に勝たせてやりたかった」数字を優先させる指揮官が見せた“情”だった。
「正直、復活マウンドに上がっても涙は出ないと思うよ」。今年初めに知人に漏らしたことがある。マウンド上で感情をむき出しにするジョニーは、時に涙を流すこともあった。だが、今は違う。背水の陣で臨む試合に込められたものは、感傷ではない。ただ、勝利に対する欲求だ。「これでスタートライン。もっと自分に厳しくなりたい」。1ヶ月ぶりの連勝を決めたロッテに、生まれ変わったジョニーがこの日、新たに加わった。
雄叫びも涙もなかった。だが、小宮山からウイニングボールを贈られると、やんちゃな白い歯をこぼした。黒木が、01年7月7日の日本ハム戦(松山)以来、実に1061日ぶりの白星。久々の味に酔いしれた。
決して本調子ではなかった。制球は定まらず、5四球を与えた。4回を終え、球数は100を超えていた。だがバレンタイン監督は「何とかして勝たせてあげたいと思った」と愛弟子の気迫に動じることはなかった。師匠の気持ちに、ジョニーは5回無失点で応えた。
およそ3年。「もう1度、勝つ喜びを味わいたい。諦めない」と何度、歯を食いしばってきたことか。「復活」、「気合」。この日使用したグラブには2つの言葉が記されていた。この1勝を契機に「復活」の文字を消し「気合」とだけ記したニューグラブを使う予定だが、「あまりに長く使ったからね。自分の手になじみすぎちゃって。ずっとこのまま使おうかな」。昨年1月から使い込まれたグラブが、長い日々を物語った。
トレードマークの涙は封印した。「泣くなよって皆が泣かせようとしてたから、絶対泣くもんかって思いました」。そして劇的な1勝をこう表現した。「これで終わりじゃない。やっとスタートラインに立てた感じです」。この言葉こそが復活の証だ。
黒木知宏投手が01年7月7日以来、約3年ぶりの白星を挙げた。「素直にうれしい」。はにかみがちな笑顔は「これからが始まり」という新たな決意を強く語っていた。
4月17日の復帰登板から数え、6度目の先発。援護に恵まれず、白星は手にできなかった。「頭で考えていることと、かみ合わない」「もう、投げる喜びだけでは…」。苦難の日々が続いた。前回は6回を1安打無失点に抑えたが、肩に微妙な違和感を覚えるアクシデントに見舞われた。だが、「もう1度、喜びを味わいたい」。復活だけを信じ、この日のマウンドに上がった。
制球に苦しんだ。5−0の2回に1死満塁のピンチを背負ったが、逃げなかった。内外角、コーナーを突く投球で、笹川、井口を連続三振に切って取り、勝ち投手の権利を手にした。1勝は「通過点」と黒木。「もっと、もっといい投球に戻すことができる」。これぐらいで満足はしていない。