7回裏ロッテの攻撃中に日本シリーズ史上初の濃霧コールド試合(降雨では過去1回)となり、ロッテが第1戦を白星で飾った。1回、今江の1号ソロで先制。5回に阪神・藤本の犠飛で同点とされるがその裏、今江とサブローの適時打で3点を勝ち越し。6回には李、7回には里崎とベニーのHRで加点。先発清水は7回1失点で完投勝利。阪神は井川が6回5失点でKO、打線も1点に抑えられた。なお、三塁打が出ればシリーズ史上初のサイクルヒットというところまで迫ったロッテ・今江はシリーズタイの1試合4安打を記録。
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | R | |
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阪神 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 1 | ||
千葉ロッテ | 1 | 0 | 0 | 0 | 3 | 1 | 5x | 10 |
本拠地に帰ったマリンガン打線が活性化した。6回、バレンタイン監督の大胆起用がここでも的中する。左腕井川ではベンチスタート濃厚とみられた李が、ポストシーズン1号を右翼席の熱狂的ファンに届けた。「ホームランを打ったことより、貴重な追加点を取ったことが嬉しい」。肩口から高めに抜けるスライダーはまさに絶好球で、中段まで届く豪快弾だった。
公式戦で左投手との対戦打率は2割1分6厘。プレーオフ第2ステージは9打数1安打と不振を極めた。だからスタメン発表を聞いたとき、李が一番驚いた。2打席目まで連続空振り三振に倒れても「狙い球を絞った。自分の感覚では調子は悪くなかった」と結果を信じて待った。本来ならこの日、父が来日し観戦予定だった。「今までのパターンなら(左投手で)自分の先発はない。だからやめさせました。それが1番悔いが残る」と珍しく軽口も出た。
7試合戦ったプレーオフでは最高でも1試合4点止まりだった。いずれも2点差以内の接戦で投手に負担を掛けた打撃陣は、このシリーズで奮起を誓っていた。ふたを開けてみれば初回から毎回安打。7回には先発全員安打を完成させて試合を決めた。濃霧を切り裂くダメ押し3ランを放った里崎は「打つ方では少し乗り遅れていたけど、いい風も吹いて完璧に打てました」。マイブームの「風」を持ち出して、ロッテがまず上昇気流に乗った。
今季初のオーダーで戦ったロッテは先発全員の15安打で10得点。シリーズの毎回安打は過去4度しかないが、今回はコールドゲームのため参考記録。先発全員安打は02年3戦巨人以来7度目で、1戦では初めて。同一チームの4人が本塁打は92年6戦ヤクルト以来11度目のタイ記録だ(1試合最多本塁打は63年7戦巨人の5本)。過去、シリーズで先勝したチームのV確率は65%で、最近10年は00年ダイエーを除く9チームが優勝。1戦で2ケタ得点のチームは59年南海V、66年巨人V、91年西武V、94年西武×だが、今年のロッテは?
日本シリーズ第1戦が行われた千葉マリンスタジアムで“大珍事”だ。シリーズ史上初の濃霧によるコールドゲームになった。
濃霧が発生したのは7回表、阪神の攻撃中だった。一塁側スタンドから上空を埋め尽くす濃霧にスタンドからは「煙が出ているぞ!」との声が上がる。
その裏、ロッテの攻撃になると濃い霧が球場全体を覆い包む。里崎の1号3ラン。続くフランコが中前打。この時、審判団が協議したが「とことんやろう」と試合続行に踏み切った。
その直後、ベニーに左翼への1発が飛び出す。山本、真鍋両外審が「濃霧で打球の飛び出しが見えない」と訴え、午後8時31分に中断する。「風がないので霧が消散せず、8時34分に幕張地方に濃霧注意報を出した」と千葉測候所は説明した。
試合続行不可能とみた中村球審は試合管理人のコミッショナー側にコールドゲームにすることを報告。ウェザーニュースをみた機構側も「午後9時から約2時間、この状態が続く」と34分の中断後の午後9時5分、ロッテのコールド勝ちが決定した。
公式戦では00年の5月、米子市民球場でのオリックス対大阪近鉄を含め濃霧コールドは4度。曲者・濃霧で大敗試合にケリがついた阪神・牧田俊洋球団社長(55)は「審判の判断ですから。ボクからは何も…」と言葉少なだった。
「直行(ナオユキ)」コールが、千葉マリンを揺るがした。ロッテ・清水は気持ち良さそうに、そして会心の笑顔でガッツポーズを作る。「甲子園で優勝してきます!」。ヒーローインタビューで高らかに宣言した。
エースの意地とプライドが前面に出た。1回、1死一、二塁で4番・金本を迎えた。「金本さんは1発で空気を変えられる人。絶対に打たせたくなかった」。気迫の投球で遊ゴロ併殺に打ち取り、流れをつかんだ。
最速146キロの直球にキレのいい変化球を織り交ぜ、7回5安打1失点。「とにかく自分の球を投げれば抑えられる。自信が深まった」。
6月3日、交流戦で阪神と対戦したときは、4回6失点でKO。甲子園に、少年時代に所属した野球団「武庫川イーグルス」を招待したが、勇姿を見せられなかった。
だがこの日全国中継の大一番で会心の投球。見事に雪辱を果たし「野球は楽しいものなんだと、少年野球チームに伝われば」と笑った。
バレンタイン監督も「チャンピオンらしい投球だった」と絶賛。エースが挙げた1勝。背番号「18」が輝いてみえた。
「目立ちたいのはヤマヤマ。思い切って打ったれい!」。ボビーマジックの“ご指名”を受け、目立ちたがりの関西魂に火がついた。ロッテの2番に座った大阪・PL学園出身の今江が、シリーズタイ記録の4安打。1発あり、小技あり、巧打あり。先発全員15安打、10得点で大勝したナインの中で、ひときわ輝いた。
いきなり1回だ。「(1番の)西岡が(11球)粘ってくれたので、タイミングを合わせることができた」。井川のチェンジアップを狙い撃ち、左翼スタンドにドカン!史上13人目のシリーズ初打席初本塁打となる先制ソロを放った。
3回は、三塁線へ意表を突くセーフティーバント。1−1の5回無死一、二塁は「何も考えんといった」と外角直球を右翼フェンス直撃の適時二塁打。7回も右前打と止まらなかった。「サイクル安打?いやいや、そんなこと!…実はちょっとだけ考えました」と笑みを浮かべた。
今季、2番でスタメン出場したのは、9月18日の西武戦の1試合だけ。それでもバレンタイン監督から、突然の2番に指名された。「思い切って、いつも通りでいい」。ボビーの言葉を実践し、暴れ回った。
トレードマークはモヒカンヘア。美容室で「サッカーの中田みたいにして」と頼んだが、なぜかモヒカンになったという。そんな目立ちたがり屋の22歳は、濃霧コールドの試合に「こんなに打ったのに、霧のほうが目立ってるやんか!!」と笑わせた。
14日に長男・陸斗くんが誕生したばかり。「オムツを替えていると、父親としてしっかりせなアカンなあと思います」。笑顔のヒーローは、この時ばかりは少しだけ表情を引き締めた。
霧に包まれた左翼席に、放物線が消えた。ロッテ・里崎が7回、虎党を黙らすダメ押し3ラン。「オレに風が吹いている」−。プレーオフで一気にブレークしたラッキーボーイは、ミラクルの続きを予感させた。
「打球は見えなかったけど、打った瞬間入ると思ったよ」。井川からは3打席凡退しただけに、お祭り男は黙っていられなかった。
扇の要としてリードも冴えた。猛虎打線を7回5安打1失点。「データと感性。うまいことミックスしたよね」。初回1死一、二塁のピンチには金本を遊ゴロ併殺に仕留める好リードで波に乗せた。
前夜は、先発の清水と“サトちゃん流バッテリーミーティング”を行った。ロッカールームのテレビで2人で「ドラえもん」を見てリラックス。「『ナオさん、のび太の声が変わってるよ』って言いながら見ました。特別なことは何もしない。こういうのがいいんですよ」。無邪気に童心に帰ったバッテリーが、息の合った投球リズムを生んだ。
打っても守ってもノッてる男。このまま日本一まで上り詰めよう。
プレーオフ第2ステージから11打席無安打と苦しんでいたロッテ・サブローが、5回1死二、三塁から左越えに2点適時二塁打。4番の仕事を果たし「ホッとした」と笑みを浮かべた。PL学園の後輩の今江が4安打猛打賞と爆発しただけに、こちらも目立ちたがりの関西魂が黙っていられなかったようだ。
ロッテ・西岡が5回、井川攻略の流れをつくった。無死一塁から二塁前へ絶妙のセーフティーバント。「今岡さんもシーツさんも前に守っていたので、セカンド前しかないと思ってた」と狙い通りの小技で一、二塁とチャンスを広げ、後続の爆発を誘導した。今江との21、22歳の1、2番コンビが見事に機能。「ボビー采配に乗せられたかな」と満面の笑みだった。
日本シリーズ第1戦は史上初となる濃霧での中断のあと、回復の見込みがないとしてコールドゲームとなった。7回裏1死後、審判団が集まり、濃さを増すばかりの霧に関して協議。その直前に、ベニーの本塁打が飛び出したが、中村稔球審は「打球が見えない」と判断、線審2人からも「打球の当たるポイントが見えない」の声があり、午後8時31分に中断を決めた。
この中断を受け、試合管理人であるNPBでは千葉マリン球場付近の気象情報をウエザーニュースなどで確認した。「9時時点の情報で、2時間後(11時)になっても、この状態は続く」の報告があり、これを中村球審に伝えた。試合開始後は、一時停止、再開など決定の権限は全て球審に与えられており、最終的に中村球審が「2時間この状態が続くなら再開できない」として、34分間の中断を経た9時5分に終了を告げた。
濃霧も雨と同じ気象条件であるとし、野球規則は30分を経過するまでは打ち切りを命じてはならないとしている。霧が濃くなり始めた7回表の時点では、同球審も「とことんやる」と続行の姿勢だった。しかし、打球の行方は確認しづらくなり、回復の見込みもないとなって打ち切りを決めた。日本シリーズは交流戦と同様サスペンデッドは採用しておらず、コールドゲームとなった。
思いもしない試合終了。ロッテ関係者は「この時期に、ここ(千葉マリン)でナイターはやったことがない。明日(23日)も心配です」と話していた。
濃霧によるコールドゲーム | |||
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年月日 | 球場 | スコア | 回 |
75-04-27 | 仙台 | ロッテ△2−2△近鉄 | 7 |
77-06-26 | 仙台 | 阪神○3−1●大洋 | 6 |
93-07-10 | 神戸 | ダイエー○10−4●オリックス | 7 |
00-05-09 | 米子 | オリックス○10−8●近鉄 | 5 |
05-10-22 | 千葉マリン | ※ロッテ○10−1●阪神 | 7 |
※は日本シリーズ
過去の日本シリーズのコールドゲーム | |||
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年(回戦) | 球場 | スコア | 原因 |
53(3) | 後楽園 | 巨人2−2南海 | 8回降雨 |
57(4) | 後楽園 | 西鉄0−0巨人 | 10回日没 |
62(3) | 神宮 | 東映2−2阪神 | 14回日没 |
本拠地に帰ったマリンガン打線が活性化した。6回、バレンタイン監督の大胆起用がここでも的中する。左腕井川ではベンチスタート濃厚とみられた李が、ポストシーズン1号を右翼席の熱狂的ファンに届けた。「ホームランを打ったことより、貴重な追加点を取ったことが嬉しい」。肩口から高めに抜けるスライダーはまさに絶好球で、中段まで届く豪快弾だった。
公式戦で左投手との対戦打率は2割1分6厘。プレーオフ第2ステージは9打数1安打と不振を極めた。だからスタメン発表を聞いたとき、李が一番驚いた。2打席目まで連続空振り三振に倒れても「狙い球を絞った。自分の感覚では調子は悪くなかった」と結果を信じて待った。本来ならこの日、父が来日し観戦予定だった。「今までのパターンなら(左投手で)自分の先発はない。だからやめさせました。それが1番悔いが残る」と珍しく軽口も出た。
7試合戦ったプレーオフでは最高でも1試合4点止まりだった。いずれも2点差以内の接戦で投手に負担を掛けた打撃陣は、このシリーズで奮起を誓っていた。ふたを開けてみれば初回から毎回安打。7回には先発全員安打を完成させて試合を決めた。濃霧を切り裂くダメ押し3ランを放った里崎は「打つ方では少し乗り遅れていたけど、いい風も吹いて完璧に打てました」。マイブームの「風」を持ち出して、ロッテがまず上昇気流に乗った。
ロッテが天も驚く快勝劇で猛虎に先勝した。31年ぶり3度目の日本一に燃えるロッテと、20年ぶり2度目を目指す阪神の初対決となった日本シリーズが、千葉マリンで開幕。ボビー・バレンタイン監督(55)の変幻自在の采配が大舞台でも的中。2番起用の今江敏晃内野手(22)が先制1号、勝ち越し二塁打を含む4安打で「シリーズ男」に躍り出た。西岡剛内野手(21)との1、2番コンビも機能して猛虎撃退の舞台を整えた。7回裏にシリーズ史上初の濃霧コールドゲームとなったが、まさにコールド勝ちと称するに相応しい1勝だった。
霧で白く煙るグラウンドに、ロッテナインが姿を現した。濃霧による34分間の中断後、午後9時5分にコールドゲーム。意外な幕切れだが、選手はファンに手を振って応えた。笑顔が持ち味の今江も、さらに表情を輝かせた。1発を含む4打数4安打の活躍。「中断の最中も集中力を切らさないよう心掛けた。でも自分が新聞に大きく載るとしたら、霧でそれが小さくなるのは嫌やなあ」と笑いを誘った。
先発全員、15安打10点のマリンガン打線を引っ張ったのが「ボビー・チルドレン」だ。初の「1番西岡、2番今江」の起用が的中した。初回、まず西岡が守りで魅せる。1死一、二塁、金本の中前へ抜けようかという打球をつかみ、併殺に仕留めた。データに基づいた二塁寄りの守備位置が奏功し、流れを渡さない。西岡のその裏の打席は三振だったが、井川に11球投げさせた。「球界のエースだから簡単には打てない。意味のある打席になった」という。そして今江だ。外角直球を左中間スタンドへ豪快にたたき込んだ。シリーズ初打席本塁打で、渡さなかった主導権をつかみ取った。「剛(西岡)が先頭打者で粘ってくれたので、タイミングを合わすことができた」と感謝した。
同点で迎えた5回、再び1、2番コンビが輝く。無死一塁で西岡が絶妙のプッシュバント。阪神の守備隊形を読み切り「二塁しかない」と狙い澄ましたバント安打。すかさず今江が右翼フェンス直撃の勝ち越し二塁打だ。今季35本のリーグ二塁打王の本領を発揮した。3回にバント安打を放っており、三塁打でサイクルヒットの期待のかかった7回には右前打。今江が「シリーズ男」に名乗りを上げる4打数4安打だった。
「2番」は9月18日以来、今季2度目の慣れない打順。「下位の方が気楽だったので、エ〜っと思った」と話した。だが、バレンタイン監督、西岡から「思い切りいって」といわれたという。「それで試合を楽しもうと思った。5回も本来なら自分から送りバントしていた。プレーオフは勝ちたい気持ちが強すぎたが、2番で気分転換できた」と話した。バレンタイン監督が「素晴らしい攻撃だった」という核として、チームを牽引。先発清水を援護し、サブロー、李、里崎、ベニーの爆発も誘発した。
プレーオフの最中、14日に幸子夫人(31)が待望の第1子(長男)を出産。ロッカー室に携帯電話を置き、練習の合間にもテレビ電話の長男の映像を見てリラックスしている。八王子の実家に里帰りしているが、シリーズ前にも野菜中心の料理法を聞き、炭水化物を減らして体を絞り込んだ。昨年入籍したが、オフの練習に集中するため挙式を今年12月にした。「立派な成績を残して恥ずかしくない式を挙げたい」が、今年の発奮材料だった。「4安打はたまたま。でも4連勝して決めたい」という今江が、シリーズ男として帽子のつばに書いた言葉「頂点」を狙う。
今江が初打席本塁打を含む4安打。シリーズの初打席本塁打は97年2戦河田(西武)以来8年ぶり13人目で、1試合4案だは04年2戦井端(中日)以来20人、22度目のシリーズタイ記録。シリーズデビュー戦で4安打は初めて。過去にデビュー戦で本塁打を含む3安打は78年1戦マニエル(ヤクルト)81年1戦柏原(日本ハム)がいたが、今江は本塁打を含む4安打でV打のおまけ付きだ。
シリーズ初打席本塁打 | ||||||||
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選手(所属) | 年(回戦) | 相手 | 投手 | 回 | 死 | 打点 | ||
日比野武(西鉄) | 54(1) | 中日 | 杉下 | 3 | 0 | 1 | ||
井石礼司(ロッテ)※ | 70(2) | 巨人 | 倉田 | 8 | 1 | 2 | ||
マルカーノ(阪急) | 75(1) | 広島 | 外木場 | 1 | 2 | 2 | ||
ソレイタ(日本ハム) | 81(1) | 巨人 | 江川 | 1 | 2 | 1 | ||
松原誠(巨人)※ | 81(1) | 日本ハム | 江夏 | 9 | 0 | 1 | ||
福原峰夫(阪急) | 84(1) | 広島 | 山根 | 3 | 0 | 1 | ||
嶋田宗彦(阪神) | 85(3) | 西武 | 東尾 | 9 | 2 | 1 | ||
大石第二朗(近鉄) | 89(1) | 巨人 | 斎藤 | 1 | 0 | 1 | ||
デストラーデ(西武) | 90(1) | 巨人 | 槙原 | 1 | 2 | 3 | ||
アレン(広島) | 91(1) | 西武 | 工藤 | 2 | 0 | 1 | ||
大野雄次(ヤクルト)※ | 95(1) | オリックス | 清原 | 8 | 1 | 2 | ||
河田雄祐(西武) | 97(2) | ヤクルト | 田畑 | 1 | 2 | 2 | ||
今江敏晃(ロッテ) | 05(1) | 阪神 | 井川 | 1 | 1 | 1 |
※は代打
シリーズ1試合4安打 | |
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選手(所属) | 年(回戦) |
与那嶺要(巨人) | 52(5) |
川上哲治(巨人) | 53(5) |
豊田泰光(西鉄) | 58(7) |
岡本伊三美(南海) | 89(1) |
吉田義男(阪神) | 62(7) |
森昌彦(巨人) | 63(7) |
長嶋茂雄(巨人) | 66(1) |
土井正三(巨人) | 69(1) |
黒江透修(巨人) | 69(6) |
柴田勲(巨人) | 70(1) |
黒江透修(巨人) | 70(5) |
テリー(西武) | 82(6) |
高橋慶彦(広島) | 84(7) |
駒田徳広(巨人) | 87(1) |
辻発彦(西武) | 90(2) |
橋上秀樹(ヤクルト) | 92(6) |
鈴木尚典(横浜) | 98(2) |
駒田徳広(横浜) | 98(5) |
佐伯貴弘(横浜) | 98(6) |
大塚光二(西武) | 98(6) |
井端弘和(中日) | 04(2) |
今江敏晃(ロッテ) | 05(1) |
ロッテのエース清水直行(29)が、大事な初戦を制する力投を見せた。過去55度のシリーズで第1戦に勝ったチームの優勝確率は約64%。抜群の駆け引きで、2人で計272打点をたたき出す金本、今岡を無安打に抑え込むなど、濃霧での7回コールドとはいえ、87球で虎を手玉に取った。交流戦で打ち込まれたリベンジも果たし、プレーオフから続くロッテの勢いをさらに加速させた。
背負ってきた重圧を、直球で解き放った。清水が、打者の懐へと潜り込んだ。6回1死二塁のピンチ。4番金本に対し、カウント1−1から内角高めへ直球を投げ込んだ。厳しいコースで踏み込ませず、カウントも奪い、最後は三ゴロに仕留めた。初回も4回も、主砲の内角を力でえぐり、打球を上げさせなかった。7回1失点完投で、シリーズ開幕投手の大仕事を全うした。
今江と並んだ濃霧のお立ち台で叫んだ。「まだ1つ取っただけなんで気を緩めず、甲子園で決めてきます」。大歓声の中、エースは何度も両腕を突き上げた。プレーオフ第2ステージから無走者でもセットポジションの投球に徹し、この日も継続。「セットでクイックだと球が走る」と初回から惜しみなく直球を投じた。戻ってきた球威を信じた。
1つのファウルで手応えを得ていた。「少し緊張していた。いつもは全くしないんですけど」と振り返った1回。いきなり四球を与えた赤星の足への警戒を強めた。カウント1−0から2番鳥谷の2球目に走ってきたが、ファウル。146キロ直球だった。「あれが大きかった」。ファウルでカウントを奪える。受けた里崎も「真っすぐが良かった。いつもと全然違いました」。直球が良ければ、変化球でタイミングも崩せる。6三振を奪った。
自分らしさを取り戻す必死さがある。フォームのバランスを取りやすくするため、セットだけでなく、スパイクにも手を加えた。体が突っ込まないよう後ろに体重を残すため、ソールの角度を微妙に調節。強風も吹く千葉マリンでも軸足でしっかりと立てるよう工夫した。「悪いときも真っすぐで、打たれるなら真っすぐで、突っ込む球としっかりコーナーをつく球とを投げられたと思う」。
濃霧による中断中もブルペンで準備していた。「最後まで行かしてもらいたいと思っていた」。6月3日の交流戦(甲子園)で4回6失点と火だるまにされたリベンジにも成功。「次もあるかも分からないんで、しっかりビデオを見て研究したい。いい打者、多いですね」と気を緩めない。バレンタイン監督から「チャンピオンらしい投球」と絶賛されたエースが、チームに勇気をもたらした。
バレンタイン監督は試合後、23日の第2戦はチーム勝ち頭の渡辺俊を先発させると発表した。「明日は渡辺俊でう。彼は良い投手だし、十分に準備を整えて、勝利に貢献してくれると思う」と語った。渡辺俊は、濃霧に包まれた初戦の試合中に「今日は早く帰れと言われたんで」と早めに着替えて帰宅し、登板に備えた。
ロッテの4番サブローが指揮官の信頼に応えた。5回裏。1点を勝ち越してなおも1死二、三塁だった。カウント2−2から井川のチェンジアップをとらえた。「その前の球でブサイクな空振りをしましたから。でもあれが良かったのかも。体が我慢してくれましたから」。低めの緩い球を引きつけての2点左二塁打。「久し振りにできた感じ」という技ありの打撃で、一気にロッテのペースに持ち込んだ。
サブローはシーズン後半4番に定着した。犠打や盗塁もできる“つなげる主砲”として、バレンタイン監督の日替わり打線の中でも、打順を固定されてきた。だがソフトバンクとのプレーオフでは18打数3安打。それでも指揮官は4番で使い続けた。
バレンタイン監督はデータを重視しつつも、選手への信頼感を込めた起用で、モチベーションを保っている。この日の先発は15勝を挙げた渡辺俊ではなく、エース清水。左打者の李をあえて左投手にぶつける。渡辺正のいきなりの先発も信頼感がなければできないこと。指揮官はサブローについても「これまでは良い当たりがアウトになっていたし、打順を変える気はなかったよ」という。
「(監督の)気持ちに応えたかった。今日、打った後も『アナタ、イチバンデス』とか言ってもらいましたから。今日のヒットで生き返ったと思います」というサブロー。阪神は、眠らせておくべき4番を、目覚めさせてしまった。
小坂、堀の負傷でスタメン二塁に抜擢された渡辺正が決勝ホームを踏んだ。5回先頭で同学年の井川から左前打。今江の二塁だで勝ち越しの2点目を記録した。今季は出場わずか20試合。プレーオフの登録メンバーからも漏れ、期間中はフェニックスリーグに参加していた。「緊張もなく落ち着いてボールを見ることができた。自分がラッキーボーイになりたい」と勝利への貢献を喜んだ。
阪神は「ロッテの大阪勢」にやられた。先制本塁打と勝ち越し打を浴びた今江は大阪・Pl学園出身(京都府生まれ)。先発井川が散々粘られ、5回にはプッシュバントを決められた西岡は大阪桐蔭出身(京都府生まれ)だ。5回に2点に塁打された4番サブローも今江と同じPL学園(岡山県出身)とは〜。また、このゲームでスタメンに抜擢され、5回の勝ち越しの口火を切った渡辺正は大阪生まれの上宮出身。つまり打線は1、2、4、9番が大阪の高校出身。6〜8番が外国人選手だから、いかに「大阪占有率」が高いか分かる。打線はロッテ清水に抑えられたが、こちらは兵庫・報徳学園出身(京都府生まれ)。まさに「関西パワー」に完敗した形となった。
ロッテ重光オーナー代行が、この日の初戦を観戦した。愛車の黄色のポルシェについて「トラの応援みたいだから買い替えようかと思った」とジョークを飛ばした後、「第2ステージで勝った時に着ていたスーツを着てきました。ノーネクタイなのは、普段着野球をして欲しいから」。験担ぎでチームにエールを送った。
「KONAMI CUP アジアシリーズ2005」で対戦する韓国サムスンの金外野守備走塁コーチら5人が、この日の試合を偵察した。同コーチは「ウチは優勝を決めてから時間がある。ゆっくり準備できるし、勝つ自信はある」と断言。その上で「やっぱりスンヨプ(李)に会えるし、ロッテに勝って欲しい」とロッテの勝利を希望した。
プロ野球日本シリーズが22日、千葉マリンで開幕し、31年ぶりの日本一を狙うロッテファンが名物の「ジャンプ応援」で球場を揺るがした。しかし、シリーズ3、4、5戦の舞台となる甲子園球場は築81年。同球場関係者はこの日、関西のロッテ応援団関係者らに、老朽化と危険防止を理由に、ジャンプ応援の自粛を呼び掛けていることを明らかにした。ジャンプができなくなる可能性が浮上したロッテファンは「絶対跳ぶ」「正式に決まれば従うしかない」と複雑な反応をみせている。
31年ぶりの日本シリーズ。千葉マリンは満員となり、入場できなかったファンはユニホームを羽織って、球場外で応援した。一塁側の出店に設置されていたテレビには100人以上の人だかりができた。濃霧のため、7回コールド勝ちが決まると、スタンドの内外で、ファンの応援歌とジャンプが続いた。
この日、ロッテファン3人に万歩計を渡して調査したところ、多い人で5147回、平均で3752回ジャンプしていた。5147回飛んだ千葉県酒々井町の主婦竹尾留美子さん(27)は「初めての日本シリーズ。感動した。9回までやっていたら、もっと跳んでいました」と声を弾ませた。
しかし、このジャンプ応援が甲子園ではできなくなる可能性が出てきた。甲子園球場関係者は、日刊スポーツの取材に「関西のロッテ応援団の方には、ジャンプを自粛するよう呼び掛けている」と明かした。
1924年(大正13年)8月に完成した甲子園は、毎年数億円をかけて改修工事を行っているが、阪神・淡路大震災でスタンドにひびが入るなど老朽化が進んでいる。ロッテの応援団、ファンが集まる左翼席は約1万人を収容するが、平均体重が仮に60キロとすると、その重量は約600トン。1機272トンのジャンボジェット機(ボーイング747−400)2機分以上の重さが、数千回も跳びはねることになる。また、千葉マリンに比べ外野席の前後幅が約20センチ狭いため、ジャンプしたファンが転落し、ケガをする可能性もある。同球場が「大丈夫だとは思うが…」と話しながらも、自粛を求めている理由だ。
「ボビーの子供達」が勝利を呼んできた。史上初の濃霧コールドゲームとなった22日の日本シリーズ第1戦は、ロッテが先発全員の15安打4本塁打の猛攻で10−1と圧勝した。今江敏晃内野手(22)が先制ソロを含む4安打と爆発すれば、西岡剛内野手(21)は5回に絶妙のプッシュバントを決め、今江の決勝打をお膳立て。新生マリーンズを象徴する1、2番が濃霧の千葉マリンで輝いた。
試合後のベンチ裏。今江の表情が崩れた。握りしめた携帯電話には幸子夫人からの「カッコよかったよ」とのメール。スタンドからは終わらない「今江コール」が聞こえる。濃霧の千葉マリン。輝いたのは22歳だった。
初めての日本シリーズ。そして初めての打席。初回、井川のチェンジアップを左中間席へ運んだ。「緩い球をうまく打つことができた。千葉では絶対に負けられない」。史上13人目となるシリーズ初打席初本塁打を記録した。3回は今岡の守備位置が深いことを確認すると三塁線へバント安打。そして同点の5回には無死一、二塁から井川の直球を決勝の右越え二塁打だ。
2番で先発するのは9月18日の西武戦(千葉マリン)以来、今季2度目だった。試合前、指揮官は「2番に起用したが、いつも通りのプレーをして欲しい」と告げた。今江は「あれがなければ、自分の判断で100%バントしていた」という。4安打は個人ゲーム最多安打。それを史上初めて、シリーズ初試合で記録したのだ。
快挙を達成した22歳だが、21歳の1番打者の存在も見逃せない。初回の打席では空振り三振に倒れたが、井川に11球を投げさせて今江の先制ソロを呼んだ。3回の第2打席と合わせ、21球を投げさせた西岡が、井川から平常心を奪ったのだ。さらに5回無死一塁では投手と一塁手の間に絶妙なプッシュバント。「打てのサインだったが、自分のできることをしようと思った。今江さんは長打もある」の言葉通り、続く今江の決勝二塁打を演出した。初回の守備では1死一、二塁で、金本の中堅に抜けようかという打球を好捕して併殺。清水を救った。
野球を楽しむことが好きな「ボビー・チルドレン」が縦横無尽にグラウンドを駆け回り、その結果が15安打4本塁打になった。史上初めて濃霧コールドとなった日本シリーズ。マリーンズの視界は良好だ。
今江(ロ)が初打席本塁打を含む4安打。シリーズ初打席初本塁打は97年第2戦の河田(西)以来13人目だ。今江は現在22歳。初打席本塁打をマークした打者では85年第3戦嶋田宗(神)の23歳を下回る最年少記録になった。また、シリーズ1試合4安打は04年第2戦の井端(中)以来20人、22度目になるが、初試合でいきなりは今江が初めて。犠打、四死球を挟まないシリーズの連続打席安打は98年大塚(西)の6打席。第2戦でシリーズ記録に挑戦する。
西岡(ロ)が初打席で11球粘って三振。第2打席は10球粘って四球で出塁した。シリーズで2打席連続で10球以上投げさせたのは、72年第3戦で加藤(阪急)が堀内(巨)から第1打席10球(結果三塁内野安打)第2打席11球(左本塁打)と記録したのに次いで33年ぶり2人目。シリーズ初打席からでは西岡が初めてだ。ちなみに今季公式戦で10球以上粘ったのは2度しかなく2打数1安打、1三振だった。
6回から立ちこめた濃霧の夜空に次々と白球が溶けていった。7回、里崎、ベニーの2本塁打で一挙5得点。阪神の外野陣も及び腰で打球を追ったが、着弾点はフェンスの向こう側だった。リードを9点に広げた直後に霧が濃くなり、中断。34分後、中村球審がシリーズ初、千葉マリンでも初となる濃霧コールドを宣告し、勝利が確定した。
「打った瞬間に入るとは思ったけど、打球は見えなかったです」。7回、1死一、三塁から里崎が放った打球は、白い霧を切り裂きながら左中間席へ。試合を決める3ランだったが、チーム一の目立ちたがり屋も、思わずガッツポーズを忘れて目を丸くした。
さらに1死一塁から今度はベニーが左中間席に2ラン。虎の息の根を止めた助っ人は「感触は完璧だったけど、霧で見えなかったから、ホームランと分かって興奮したよ」とまくし立てた。
霧が呼んだ?打線爆発での大勝。グラウンドでの視界は不良だったが、この白星で日本一への視界は良好になった。過去55度の日本シリーズで、第1戦に勝利したチームが日本一に輝いたのは35度でV確率は約64%。だが、ここ10年に限ると初戦を制したチームが9度頂点に立つなど、V確率は90%に上昇する。チームがシリーズに出場した過去4度の初戦成績は1勝3敗。唯一の白星を挙げた50年は日本一だった。
「メジャーでは雪や雨はあったけど霧は初めて。マイナーでは砂嵐での中止はあったけどね」。チームゲーム最高打率.455(75年第3戦の阪急.450を更新)、チーム5度目の毎回安打も、共にコールドで参考記録となったが、天候の“アシスト”もあっての大勝劇に、バレンタイン監督もえびす顔だ。天も味方につけて、31年ぶりの日本一に突き進む。
シリーズのコールドゲームは62年の東映−阪神第3戦以来43年ぶり4度目。中断を経てコールドになったのは、53年巨人−南海第3戦(降雨)に次ぎシリーズ2度目になる。過去3試合のスコアを見るといずれも引き分けで、決着がついたのは初めてだ。また、これまでコールド試合の最短終了イニングは前記巨人−南海戦の9回途中。9イニングをフルに戦わないで勝利を挙げたのはこの日のロッテが初めてだ。
レギュラーシーズンでは濃霧による中止、中断が何度かあり、濃霧でコールドゲームとなったのはセ、パ合わせて4試合。最近では00年5月9日オリックス−近鉄戦(米子)が5回裏無死から1時間1分中断した後、コールドゲームとなっている。また、千葉マリンでは95年9月24日のロッテ−近鉄戦でグラウンドからの水蒸気が原因で11分中断というのはあるが、濃霧による中止、中断は1度もなかった。
勝利監督のお立ち台に上がったバレンタイン監督の顔が誇らしげだ。日本シリーズ開幕戦。“ボビーマジック”でまんまと猛虎をのみ込んだ。
球界屈指の左腕・井川をどう攻略するか。日替わりオーダーを得意とする指揮官は、レギュラーシーズン中に1度だけあった今江の2番起用を敢行し、さらに左の井川に左の李スンヨプをぶつけた。さらに、腰痛で欠場したベテラン堀の代役としてプレーオフにも出場しなかった渡辺正を抜てき。熟考の末のオーダーが最高の結果を生んだ。
1−1の5回、先頭の渡辺正が左前打で出塁し、勝ち越し劇につなげた。「どこの打順でもこなせる」と指揮官が自信を持って送り出した今江も4安打2打点と爆発した。極めつきは李だ。プレーオフ第2ステージでは5試合中、左投手が先発した3試合は全て先発から外された。それだけに、李自身も「今までのパターンでは先発から外れることは間違いない」と思い込み、韓国の父の来日を急遽やめさせた。ところが「8番・DH」でまさかの先発出場。6回に井川から1号ソロを右翼席に叩き込み「父を呼ばずに悔いが残る」と笑顔で悔しがった。
「渡辺正が出てから打線が活発に動いてくれた。李の1発も大きかった」。ナインですら全く予想できないボビー采配で先発全員の15安打10得点。日本シリーズを「究極のエンジョイ」と表現した指揮官のタクトは絶妙なハーモニーを奏でている。23日の第2戦。“ボビーマジック”はさらに輝きを増す。
9番・二塁でスタメンに抜擢された渡辺正が攻守で活躍した。今季わずか20試合の出場でプレーオフはベンチ入りしていなかったが、堀、小坂の故障で急遽前日、チームに合流したばかり。5回は赤星のボテボテの打球を判断よく突っ込んでさばくと、その裏の打席では勝ち越しの口火を切る左前打。「やってきたこと、できることを頑張ってやろうと思った」と試合後は笑顔満開だった。
初のシリーズ先発となった清水直は、全ての球に魂を込めた。7回を5安打1失点。濃霧によるコールドゲームだが、堂々の“完投勝利”だ。「阪神打線は切れ目がなく、油断できなかった。力尽きたけどしっかり投げられた。これだけお客さんが入ってくれて、緊張感が勇気に変わりました」。レギュラーシーズンは10勝11敗と不本意な成績に終わった。だが、13日のプレーオフ・ソフトバンク戦にセットからの投球で勝利して完全復調。140キロ台後半の直球と、フォークを低めに集め、大量点にも守られて日本シリーズ初白星を手に入れた。
濃霧の中断中もブルペンで投げ込み、登板に備えた清水は「これで向こうが危機感を持ってくれたらこっちのペース」としてやったりの笑顔。復活エースが31年ぶり日本一への扉をこじ開けた。
サブローが18打席ぶりとなる左越え2点二塁打でダメ押しした。5回に今江が決勝打を放ち、なおも1死二、三塁の場面で快音を響かせた。プレーオフ第2ステージは18打数3安打。「プレーオフでは助けられたので、今日は助けないと…と思っていた」と笑顔。バレンタイン監督からはベンチで「アンタ、1番デス」と声をかけられ「気を引き締めて、そして勝ちます」と連勝を誓った。
7回、フランコが先発全員安打を完成させる中前打を放った。00年のメッツ時代にバレンタイン監督とワールドシリーズに出場した助っ人は「同じような雰囲気だった。こういう試合は1戦目を取ることが大切だからね」と大事な初戦を白星で飾り満足げ。また、2安打した福浦は「日本一のために明日も頑張る」とチームリーダーらしく気を引き締めていた。
ロッテは4本塁打を含む毎回の15安打10点で阪神に大勝。シリーズの2ケタ得点試合は04年第3戦の西武(10−8=対中日)以来16度目。ロッテでは50年第6戦(当時毎日)74年第2戦の8点を抜く最多得点になった。また、シリーズの1試合最多本塁打は巨人が63年第7戦で放った5本だが、初戦4ホーマーは91年西武(清原、秋山、デストラーデ、石毛)以来14年ぶり2度目。
“ボビー・マジック”で先勝だ。ロッテのボビー・バレンタイン監督(55)が2番に抜擢した今江敏晃内野手(22)が、先制1号と決勝打を含む4安打。圧勝へと導いた。試合は7回裏で史上初の濃霧コールドゲーム。最後も“魔術”で締めたロッテが、31年ぶりの日本一に好スタートを切った。
濃い霧を貫く輝きを放った。これぞ“ボビー・マジック”。笑顔でコールドゲームを受け入れたバレンタイン監督の「伝家の宝刀」は、日本シリーズでも最高の切れ味をみせた。
「雪や雨は経験してるけど、霧は初めての経験だよ。今江の2番?起用した選手はみな私のチームの一員。勝利に貢献してくれると思ったから起用したんだ」。公式戦で使った125通りのオーダーで、9月18日の西武戦(千葉マリン)のたった1度しかなかった「2番・今江」。大一番での大抜てきが、ズバリ的中した。
1回1死。負傷の堀に代わって2番に昇格した22歳が、井川の4球目チェンジアップを狙い撃つ。打球は虎党で埋まる左中間席へ。「いいところを見せられました」。14日に長男が誕生。夫人の実家にいる愛息の成長をメールでチェックしているパパが、我が子に届けとばかり、シリーズ初打席初本塁打だ。
勢いは止まらない。同点に追いつかれた直後の5回だ。今季1度もスタメンのなかった渡辺正が左前打、西岡がセーフティーバントでチャンスを広げると、打席には再び今江。1球目、バントのサインはボールで見送り、サインが取り消された2球目を叩いた。
「監督から『思い切っていけ』と言われていたんです。だから“打ったれ”と、思い切りいきました」。打球はグングン伸びて、右翼フェンス直撃の適時二塁打。8月に22試合連続安打を記録した“ミスター・ロッテ”候補が、勝利の女神をぐっと近づけた。
今江の2番抜擢だけでなく、バントがセオリーの場面で一気に勝負をかけたボビー。この采配に、第1戦にかける思いが凝縮されている。メッツの監督として初めて出場した2000年のワールドシリーズ。ヤンキースとの初戦で、延長12回サヨナラ負けを喫した。全試合接戦になったシリーズだったが、最後まで響いたのが初戦で主導権を取られたこと。力を出し切れないまま1勝4敗で敗れた。
日本シリーズでも過去10年の初戦勝利チームは9度、日本一をつかんでいる。“先手必勝”は、日米ともに変わらぬ短期決戦の常識なのだ。
「初戦勝利?あと3勝しないとならないということ。また明日、ガンバリマス」。この勝利の意味を誰よりも知りながら、バレンタイン監督は喜びを胸に秘めた。ニューヨークの借りは日本で返す−。メジャー経験監督初の日本一に向け、ボビーがシリーズの流れをつかんだ。
日本シリーズ第1戦は、シリーズ史上初の濃霧コールドゲームとなった。午後9時5分、中村稔球審がこれ以上の試合続行は無理と判断。コールドゲームを宣告した。外野線審の「(打球の)打ち出しが見えない」という訴えで、試合が中断したのはロッテが10−1とリードした7回裏。午後9時現在の天気予報で「2時間待っても回復の見込みはない」(中村球審)ことが分かったため、34分間の中断後にコールドゲームを決めた。
昭和25年の第1回以来今年で56回目のシリーズだが、コールドゲームは昭和28年の巨人−南海(現ソフトバンク)の第3戦、雨のために2−2で引き分けとなったのをはじめ、史上4度目のことだった。
千葉マリンで発生した濃霧は、湿った空気と弱い風が原因。この日は午前中から雨が降り続き、北東の風1〜2メートルと微風状態だった。「もともとスタジアム周辺は、北からの風と南からの風がぶつかる、霧が発生しやすい地域。今回はそこに野球開催が重なってしまった」と銚子地方気象台。試合中断直後の午後8時34分には千葉県北西部に濃霧注意報が出された。
気迫がボールに乗り移った。金本、今岡ら猛虎打線の内角をえぐる強気の投球。チームをファンを、そして球場まで清水の右腕がグイグイと引っ張った。
7回5安打1失点の“完投”勝利。13日のソフトバンク戦に続くポストシーズン2連勝。今季10勝11敗と苦しんだエースが、大一番で完全復活を遂げた。
1回、注意していたはずの先頭・赤星に四球を与えた。今季、リーグ戦、交流戦と2度の“開幕投手”を務めた清水も、「緊張しました。腕が振れていなかった」。初めて体験する日本シリーズの舞台。独特の雰囲気に自分を見失いかけた。
しかし、びっしりと埋まったスタンドから“ナオコール”が響く。「あれだけの声援を受けて、勇気に変わった」。背中で感じる大声援。西岡、今江らの好守にも支えられ、エースは本来の投球を取り戻した。
気迫も十分だった。突然、グラウンドを覆った深い霧での中断も、すぐにブルペンに駆け込みキャッチボール。「任された試合ですから、最後まで行くつもりでした」。集中の糸を最後まで切らすことはなかった。
「チャンピオンといえる投球だった」とバレンタイン監督も絶賛した、これぞエースのピッチング。リーグ戦、交流戦、日本シリーズ。3度の開幕を任された清水が、3度目の正直をモノにして、ロッテに強烈な追い風を吹き込んだ。
前日21日の監督会議の“決定事項”通り、試合後に両軍監督から、第2戦の予告先発が発表された。ロッテは渡辺俊が連勝をかけてマウンドにあがる。「そのときになってバッターを見ながら、球種を考えます。風とかの具合もありますしね」と不敵な笑み。地面スレスレからの浮き球で猛虎打線を封じる。
プレーオフで爆発した勝負強さは日本シリーズでも健在だった。プレーオフ第2ステージで2発を放った里崎が、7回1死一、三塁で橋本から左中間席へ3ラン。勢いはそのままだ。
「打った瞬間入ると思ったけど、霧で打球は見えなかった。日本シリーズでも、気持ちはいつもと変わりません」。第2ステージ最終戦。連勝からの連敗でベンチが追い込まれる中、「僕には風が吹いている」と強気の姿勢を崩さず、8回に逆転の2点二塁打を放った男。勝負強さはシリーズでも変わらない。
初出場となる日本シリーズ開幕前日(21日)のロッカールーム。普通は重圧がかかるものだが、テレビでドラえもんを見てリラックス。「“声が違うやん!!”って、(清水)直さんと2人でみていました。声優が変わって初めてみたから」。プレッシャーとは無縁の“強心臓”が、大舞台でも価値ある1発を導いた。
「今日も風が吹いた?まだ早い。3勝してから強くなるんです」。打って、守って、Vへ一直線。ポストシーズン3発の里崎が、今シリーズでも主役を演じる。
打つだけではない。走るだけでもない。粘る。西岡が赤星との“核弾頭対決”を制した。
「井川さんは球界を代表する投手ですから、何とか粘って、少しでも投げさせようと思いました。ファウルは狙って打てません。ボールに食らいついた結果です」。端正なマスクがほころんだ。三振に倒れた1回の初打席は井川に11球を投げさせ、続く今江の先制弾を呼び込んだ。第2打席でも10球粘って四球で出塁。「阪神バッテリーにやられました」と盗塁は失敗に終わったが、同点に追いつかれた5回にやり返した。
無死一塁でプッシュバントを敢行。打球は井川と一塁・シーツの間をコロコロと抜ける内野安打でチャンスを広げ、再び今江の適時打を呼び込んだ。そのいやらしさの前には、2タコ1四球に終わった赤星もかすむ。
「2番に今江さんが入って、面白くなるだろうなと思った。うまくハマりましたね。今江さん、すごいですね」。1回の守りでは、金本が放った二遊間の当たりを併殺に仕留める好守も見せた21歳。圧勝を演出したのは、間違いなく西岡だった。
西武の松坂がテレビ中継のゲストとして“参戦”した。慣れない仕事とあって、試合終了後は「疲れました。ヘタなことは言えないし、つっかえないように気を使った」とグッタリ。「去年は自分が出ていたんだな、と悔しい思いはありますよ。ロッテは明日も勝てば勢いがついて、4勝2敗くらいでいきそうですね」と予想していた。
球場横にある600台収容の駐車場は、午後1時には満車に。隣接する幕張メッセでは「第39回東京モーターショー」も開催中で、駐車場を求めて一時はJR海浜幕張駅から球場まで約1キロにわたって、車が渋滞した。駐車場の整理係は「こんなに車があふれているのは、今年初めてです」と大忙しだった。
コリアンシリーズを制した韓国・三星ライオンズの金平鎬・外野守備走塁コーチら3人が、日本シリーズ第1戦(千葉マリン)を観戦。11月10日から13日まで開催される『コナミカップ・アジアシリーズ』(東京ドーム)に備えたもので、決着がつくまで全試合を観戦する予定。
ボビーマジックが立て続けに決まって、ロッテが先勝した。今季2度目の2番にすえた今江が初回に先制アーチ、5回の勝ち越し二塁打など4安打の大活躍。プレーオフで大不振だったサブローをそのまま4番で起用すれば、5回に2点二塁打をマーク。左腕・井川にもかかわらず、8番・DHで先発起用した李も6回に中押し弾と、バレンタイン監督の打つ手がズバズバ当たり、10得点。7回裏途中、濃霧によるコールドゲームと前代未聞の結末となったが、阪神側から抗議すら出ない大差発進となった。
立ち込める濃霧の先に、日本一への道が映し出された。純白の右翼席も、大量点を刻み込んだスコアボードも視界に入らない。かすかに見えるお立ち台に向かって、ボビーは走った。「最後まで試合ができなかったのは残念でしたが、素晴らしい打撃と素晴らしいピッチングだった」。白い霧に包まれた千葉マリンに、バレンタイン監督の勝ちどきが上がった。
絶体絶命の窮地から、自らの手腕で活路を切り開いた。小坂、堀を故障で欠いた第1戦。2番とセカンドに穴が開いたが、逆にマジックの“余地”は広がった。指揮官の選択は、今季1度しかなかった今江の2番起用。そして、4月18日以来の渡辺正のスタメン抜擢だった。「彼らはチームの大事な一員。勝利に貢献すると確信していた」同点で迎えた5回、窮余の策がマジックへと変身した。
口火を切ったのは、前日に1軍合流したばかりの渡辺正。「緊張はなかった」と振り返る強心臓が三遊間を破り、“ボビー劇場”の幕が上がった。西岡が巧みなプッシュバントでつなぐと、一塁ベンチで指揮官がニヤリと笑う。「ひとたびヒットが出たら、ウチの打線は活発になるんだ」。2番・今江は右翼線へ勝ち越し二塁打。17打席無安打中でも「4番を外すつもりはなかった」と全幅の信頼を置くサブローが、左越えへ2点二塁打を放ち猛虎に引導を渡した。
昨オフ、ボビーは西岡、今江の若武者コンビを今季のキーマンに指名。初めて組んだ1、2番は面白いように機能した。「この1、2番は面白くなると思った。ボビーはホンマすごいと思いましたね」と西岡。左対左の不利を承知でスタメンに起用した李承Yは1ヶ月ぶりのアーチをかけ、“プレーオフ男”の里崎、ベニーも1発を放った。
マジックは打線にとどまらない。初戦の先発は絶好調の渡辺俊ではなく、不調に苦しんできた清水。レギュラーシーズン終了後、指揮官はもがき続けた右腕に言葉をかけた。「今年は君にとって楽しいシーズンではなかっただろう。だから、日本シリーズでは一緒に喜ぼう」ボビーは不動のエースを見捨てなかった。
5回から千葉マリンを襲った霧は7回、ロッテが10点目を奪ったところで完全に視界を妨げた。先発全員安打の4発10得点。「持てる力をあらゆる面で出せた」。濃霧がなくとも、猛虎を“コールド”でKOした。日本一へあと3勝。「雪、雨、砂嵐の記憶はあるが、霧は初めての経験だよ」とボビー。メッツ時代はワールドシリーズで苦汁を飲み、NO.1を逃した。スタジアムを覆った白い霧は、最高の“初体験”の前兆なのかもしれない。
右へ、左へ快打連発。セーフティーバントに豪快な本塁打。バリエーションあふれる攻撃で、歴史に名を刻んだ。日本シリーズ初試合での4安打は史上初。それでも、今江の表情はどこか冴えなかった。「せっかく大きくなるはずの僕の記事が、霧に奪われるんじゃないですか」濃霧がなければ、三塁打で達成するサイクル安打、史上初の1試合5安打の期待もあった。
指揮官のメッセージに奮い立たった。9月18日の西武戦(千葉マリン)以来、今季2度目の2番。はじめは複雑な心境だったが、バレンタイン監督から「いつも通り思い切ったバッティングをしてほしい」と告げられると、すぐにくすぶった気持ちは消えた。初回のシリーズ初打席初本塁打で勢いに乗ると、ハイライトは同点の5回無死一、二塁。初球の送りバントのサインが2球目には消えた。「監督の言葉を思い出して、ゲッツーでもいいやと思って開き直れた」豪快なスイングから放たれた打球は右翼フェンスを直撃。勝ち越しの走者を迎え入れ、試合の流れを一気に引き寄せた。
パパの自覚も十分だ。14日に長男・陸斗君が誕生した。現在、幸子夫人(31)は実家の東京・八王子に帰省中。妻子に会えない日々は続くが、テレビ電話で送られる愛息の動画を試合前に見て、高揚する気分を落ち着かせた。「頑張らんとな、と思います」22日は本来の出産予定日。幻となった“記念日”に、猛打でテレビにかじりついて観戦した家族を喜ばせた。
栄光に彩られた野球人生だ。中学時代に所属したボーイズリーグ・京都田辺ボーイズでは全国制覇。その後、日本選抜メンバーとして臨んだ世界大会も制した。好きな言葉は「頂点」。そして今、プロの世界でも日本一の栄誉に、手が届こうとしている。
お立ち台では「4連勝で一気に日本一を決めたい」と勇ましい全勝V宣言も飛び出した。あと3勝。華やかな球歴に、最高の勲章が加わるのは時間の問題だ。
ロッテ打線が爆発。7回裏1死濃霧コールドで先勝した。初回に今江の1号ソロで先制すると、阪神も5回に藤本の左犠飛で同点。ロッテは5回無死一、二塁から今江の右越え適時二塁打で勝ち越し。なおも1死二、三塁、サブローも左越えに適時二塁打を運びこの回3点。6回には李の1号ソロ、7回にも里崎の1号3ラン、ベニーの1号2ランを含む15安打10得点で制した。阪神は得点源の金本、今岡を封じられたのが誤算だった。
気迫が背中から伝わってきた。清水は丁寧に、そして大胆に阪神打線を封じ込めた。「逃げずに立ち向かおうと思った。それだけです」と、3点リードの6回1死二塁。金本には大胆に内角を攻めた。「金本さんが打ったら雰囲気が変わる。だけどインサイドで勝負しないと自分の持ち味が出てこない」とこの日最速の146キロで内角を突き、最後はスプリットで三ゴロに仕留めた。4番を抑え、猛虎の勢いを消し去った。
試行錯誤の好投だ。プレーオフ第2Sから走者のいない場面でもセットからの投球に変更。「今はこっちの方が打者に向かっていける」と不振だったシーズン中は140キロ前後だった直球が、146キロまで戻った。7回を5安打1失点と開幕投手の役目をしっかり果たした。
エースのプライドと向上心が清水を支えている。尊敬するのは04年、サイ・ヤング賞を受賞したツインズの左腕サンタナだ。「中4、5日で1年間ローテを守り続けるのが最高の投手」と、投球内容や登板間隔を研究した。10勝11敗と満足のいく成績を残せなかった。「上(上原)も、松坂もそうだけど、負けた時に叩かれないのはエースじゃないと思ってやってきた」と、どんな批判も受け入れ投げ続けた。
プレーオフ第2S第2戦で7回2失点と完全復活をアピール。シリーズ進出に貢献し、大舞台での先発をつかみ取った。「緊張したけど、これだけお客さんが入っているので勇気をもらいました。気を緩めず甲子園で決めてきます」。エースの気迫の投球が、日本一へ大きな1勝をもたらした。
1番に入った西岡が、目と足で阪神バッテリーを撹乱した。初回の第1打席。三振には倒れたが、7球ファウルで粘り、井川にいきなり11球を投げさせると、3回の第2打席でも10球目に四球を選び、左腕からリズムを奪った。
「井川さんは球界を代表する投手。そう簡単には打てない。でも、スンナリ終わるんじゃなく、少しでも(球数を)投げさせようと思っていた。アウトにはなったが、意味ある打席だったと思う」という西岡は5回の第3打席ではセーフティーを敢行。「打て、のサインだったけど、今江さんが当たっていたし、最低でも(二塁に)送ろうと思った。考えていた所に転がった」という二塁前への絶妙のバントヒットで好機を拡大させた。
3回には足を使った。盗塁を試みて間一髪アウトにはなったが、「井川さんもクイックで矢野さんも取ってから早かった。僕の負け。でも、弱気にならずにどんどん走りたい」とめげる様子はない。虎バッテリーにとって、西岡の卓越した目と足は脅威に映ったに違いない。
千葉マリンスタジアムを包む白い霧は濃さを増し、午後9時5分に中村球審が日本シリーズ史上初の濃霧コールドゲームを宣告した。
試合中断はロッテが10−1とリードした7回裏1死の午後8時31分。直前のベニーの本塁打が谷三塁塁審にも「よく見えなかった」というほど、霧は濃くなった。外野の線審がボールとバットが当たった瞬間が見えなくなったため、続行は不可能になった。強い海風を防ぐための高い観客席が災いし、グラウンドに降りた霧が風に流されなかった。
公認野球規則には中断の場合、試合再開に努めるため30分間は待つ−とある。しかし、午後8時34分には千葉県北西部に濃霧注意報が出された。千葉県の銚子地方気象台によると「雨上がりの湿っている状況で、風が弱かったので霧が出たのだと思う。寒い時期には出やすい」と説明。さらにウェザーニューズで確認したところ2時間は回復の見込みがないことが分かった。
34分間の中断後、審判団は試合再開を断念。日本シリーズにはサスペンデッドゲームを採用しておらず、主催の日本野球機構が了承してコールドが決まった。実質的な責任審判の中村球審は「我々は続けたかった。残念です」と説明。パ・リーグの前川審判部長は「30分間は目安。雨ならアメダス(地域気象観測システム)を見て何時間でも待つが、霧は判断しようがない」と苦しい胸の内を明かした。
千葉マリン周辺には早朝8時から熱心なファンが列を作った。球場に隣接している700台収容の駐車場は午後零時半には早々と満車に。午後4時の開場直前、球場周辺は人であふれかえった。ロッテの優勝記念グッズ売り場は最大2時間待ち。そんなお祭りムードに試合前から酔いつぶれるファンが続出。過去最大規模の警備員約300人(通常は約30人)が周辺の警戒にあたった。
またJRでは混雑緩和のためナイター終了後、午後10時台の東京行きの京葉線列車を2本増発し7本に。最寄りのJR海浜幕張駅では通常9人の駅員を昼間は56人に増やし、ナイター終了後にはさらに警備員8人(通常0人)を配備し、万全の態勢をとった。同駅の壬生駅長は「気持ちよくご利用していただけるように、秩序を維持できるよう全力を尽くします」と気を引き締めて話していた。
シリーズ史上初の濃霧によるコールドゲームでロッテが先勝した。10−1とリードした7回裏の攻撃途中、球場上空を覆っていた霧が濃くなった。外野の線審からボールとバットが当たった瞬間が見えなくなり、判定に支障をきたすため、午後8時31分に中断とされた。同34分には千葉県北西部に濃霧注意報が出されるなど回復が見込まれないため、審判団が試合管理人である根来泰周コミッショナーと協議し、同9時5分にコールドゲームが宣告された。日本シリーズは降雨によるコールドゲームはあるが、濃霧では初めて。ペナントレースでは00年5月に鳥取県米子市で行われたオリックス−近鉄など数例ある。球審を務めたパ・リーグの中村稔審判員は「2時間待っても回復の見込みがないとのことだった」と打ち切りの理由を説明した。
ロッテ清水にいきなり試練が訪れた。1死一、二塁で打者は4番金本。このピンチに「ゴロを打たせれば何とかなる」と自分自身に言い聞かせ、ストレート2球で追い込むと最後はスプリットで遊ゴロ併殺打に。「あれで楽になった」と言うように、その後はリズムに乗った投球が続いた。エースと呼ばれながらシーズンでリーグ最多の27本塁打を浴びたように安定感に欠け、先発投手陣では4番手に降格されていた。そんな屈辱をソフトバンクとのプレーオフ第2ステージ第2戦での7回2失点の好投で晴らした。走者がいない状態でもセットポジションで投げ、この日もセットでの投球を貫いた。3点を勝ち越した直後の6回1死二塁でも金本、今岡を打ち取った。赤星を含めた、「乗せてはいけない」3人を無安打に封じるなど7回を1失点。清水は「こういう野球をすれば、ウチは勝てる」と胸を張った。
ロッテのサブローが4番打者の存在感を見せた。5回、1点を勝ち越した後の1死二、三塁で、低めの変化球をすくい上げるようにして、2走者を迎え入れる左越え二塁打。思わずベース上で手を突き上げた。プレーオフでは打率2割4分と低迷し、持ち前の勝負強さを発揮できなかった。「変な重圧はプレーオフで既に味わったんで。今日は楽しくできてますよ」と久し振りの活躍に胸を張った。
シリーズ初出場の今江が先制アーチ、勝ち越しの適時打を放ってチームを勝利に導いた。1回の第1打席にシリーズ史上13人目となる初打席本塁打。カウント0−2からの3球目を完璧にとらえた。先頭の西岡が三振に倒れるまで11球を投げさせ「西岡が粘ってくれたので、タイミングを合わせることができた」と言う。3回はセーフティーバントを決め、同点とされた直後の5回は無死一、二塁で右翼フェンス直撃の勝ち越し二塁打。堀と小坂が故障し打線に穴があく課題に、バレンタイン監督から2番で起用された。シーズン中も100通り以上も打線を組み替えたが、今江の2番は1度だけ。結果は先制弾、勝ち越し打を含む4打数4安打のまさに「ボビー・マジック」となった。監督から「君は将来のスーパースターになれる」と励まされてきた今江は「いきなり最高の結果を出せて本当に嬉しい」と大勝に笑顔を見せていた。
全席指定のため、徹夜組は阪神ファンが3人並んだだけ。球場関係者は24時間態勢で警備員を配置したが、「公式戦と違って席取りの必要もないですから静かでした」と拍子抜けだった。
イワシ団子や菜の花和えなど、千葉をイメージした「日本シリーズ限定弁当」を1000個販売した。弁当だけで公式戦開催時より2倍強の1日1500個を用意し、開門から飛ぶように売れた。売店担当者は「朝から雨が残って、天気だけが心配だったが(売れ行きは)予想通り」とホクホク顔だった。
入手難で入場ゲート横ではボードを掲げて余り券を求めるファンが立ち続けた。
ロッテ本社もビジネス機会を逃すまいと販促部員を投入。主力商品「コアラのマーチ」5000袋とアイス2000個を無料配布した。ロッテ・アド企画部の堀本祐司主査は「商品を知ってもらえれば」。
隣接する幕張メッセでは大イベント「東京モーターショー」の一般公開がスタート。周辺道路の混雑が予想されたが、湾岸線の一部高速道路が渋滞しただけで混乱はなし。幕張本郷駅からバスを運行する京成バスも臨時便を増発し対応した。
その瞬間、誰もが涙を流していた。広報という立場上、冷静であろうと思っていたが、渡辺俊介投手に泣きながら抱きつかれると、思わず涙腺が緩んでしまった。17日、福岡ヤフードーム。我ら千葉ロッテマリーンズはプレーオフで、福岡ソフトバンクホークスを破って、31年ぶりのリーグ優勝を決めた。
2勝2敗で迎えたプレーオフ最終戦。勝てば優勝。負ければ終わりという状況となりバレンタイン監督が動いた。練習が始まる前に選手サロンに選手、スタッフ全員の集合を呼びかけたのだ。そして大きな声で話し始めた。「みんな、今から15秒間、目をつぶろう。みんなで今日の夜、何をしたいかを考えてくれ。試合後の自分を思い描いてくれ」。
バレンタイン監督は節目節目で、この手法を使ってきた。キャンプ初日、開幕前、そしてプレーオフ第1ステージ前。選手たちは瞑想の中、自分が輝いている姿を思い描く。それは胴上げ投手になっている自分の姿であったり、起死回生の本塁打を打った姿であったり、個々で変わってくるであろうが、この時、誰もが31年ぶりの優勝に貢献している自分の姿を思い描いていたことだけは間違いない。団結力、そして組織としての集中力を高めるために指揮官は全員に目をつぶらせた。 結果は皆さんのご存じの通り。ビールかけの挨拶でバレンタイン監督は「オレはあの時、ビールかけをしている自分の姿を想像していたんだ」と笑顔でスピーチした。
この試合の前夜にはこんな出来事もあった。宿泊しているホテルは1フロア貸し切り。エレベーターホール前にマネジャーが連絡事項を書き込むための大きなホワイトボードが置かれていた。決戦の前夜、そのボードに誰かがこう書き込んだ。「明日、絶対に勝つぞ」。それが誰だかは分からない。しかし、それから30分後、再びボードを見るとあっという間に書き込みは増えていた。「もちろん」、「ボビーを胴上げするぞ」、「勝ってビールかけだ」。それからも増える一方。いつの間にかホワイトボードは1つの寄せ書きのようになっていた。千葉ロッテマリーンズというチームの団結力を垣間見た瞬間であり、勝てると確信を持った現象ともなった。
泣いて、笑って、ファンと喜びを分かち合った。しかし、余韻に浸るのも1日だけ。激闘を制したチームは中4日という強行日程で始まるセ・リーグのチャンピオン、阪神タイガースとの日本シリーズに向けて動き出した。さあ、今日、千葉では初めての日本シリーズが行われる。ソフトバンクは真の王者といえる強いチームだった。他のチームも油断は許されないほど強かった。その者達は涙を流し、我々だけが出場することが許された決戦。パ・リーグの代表としてパ・リーグのレベルの高さを阪神相手に証明する義務が、我々にはある。(広報・梶原紀章)